朝、窓のカーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました空花は、すぐ横に眠る夕陽の姿を見つけた。昨夜、彼の胸に頭を預けたまま眠ってしまったのだ。

小さく息を吸って、心の中で呟く。……ほんとはね、モッチーが好き。

けれど、彼が目を覚ます前にそっと立ち上がり、音を立てないようにドアを閉める。逃げるように廊下を歩きながら、心臓が痛いほどに鳴っているのを感じた。

午後、いつものように配信を覗いた。画面の中の彼は笑っていて、リスナーのコメントを拾いながら軽口を叩いている。その声を聞きながら、昨夜あんなに弱々しかった人と同じだなんて信じられない。

「……やっぱり、わたしだけだったんだ」


口に出した瞬間、涙が滲んで慌てて目を拭った。


「先輩、昨日はどこに行ってたんですか?」

夕食を買いに部屋を出たところで、結が問いかけてきた。
「え?あ、ちょっと……」

ごまかす空花に、結は鋭く目を細める。


「夕陽さんの部屋ですか?」
「……」

否定できなかった。

結は深く息を吐き、そして静かに言う。


「僕のこと、ちゃんと見てください。僕はいつだって、先輩のそばにいます」

胸の奥がぐしゃぐしゃになる。
……そんなこと分かってる。分かってるのに、どうして心はモッチーを追いかけてしまうの。

数日後。
夕陽の部屋に呼ばれた。ゲーム雑誌の取材があったらしく、散らかった資料を片付けている彼の背中は妙に疲れて見えた。

「この前のこと、覚えてる?」

空花は勇気を振り絞った。
夕陽は一瞬だけ手を止め、肩越しに笑って見せる。


「なにそれ。俺、酔ってたんじゃね?」

軽い調子。いつものモッチー。
だけど、昨夜の記憶――胸に抱かれて眠ったあの温もり――は確かにここにある。

「……忘れたなら、いい」

空花は俯いた。

夕陽は彼女の表情に何かを感じ取ったのか、ふっと真剣な顔になった。けれどすぐに視線を逸らす。


「くーちゃんには、おむすびくんが似合うよ」

胸に刺さる言葉。
好きなのに、背中を押される。
その優しさが一番残酷だと、空花は知っていた。

夜、部屋に戻った空花は、ベッドに倒れ込みながら呟いた。


「わたしの恋は……やっぱり始まらないんだ」

涙に濡れた声は誰にも届かず、薄暗い天井だけが静かに見下ろしていた。


ひいなさんからいただきました。ありがとうございましたーー!!